精神生理性不眠症
私たちは、ストレスを受けると緊張したり興奮したりしますが、これらは脳にとって強い覚醒刺激となります。
そのため、就寝の際にストレスが解消できていない状態にあると、なかなか眠りにつけないことがあります。眠ることができなければストレスが助長され、悪循環に陥ります。
このような不眠は、最初のうちは一過性のものですが、ストレスの元がなくなったとしても眠れないことを気に病むことで、眠ろうとすればするほど眠れなくなってしまい長期間に渡ることがあります。
たとえば、近日中に重要なプレゼンが控えている場合に、これに対する不安と緊張のため目がさえてしまい、寝るべき時刻になってもなかなか眠れないということがあります。
通常は、このプレゼンが終われば不安や緊張は解消され、不眠もなくなります。これは一過性の不眠であり、慢性的でないことから不眠症ではありません。
ところが、「眠れなければプレゼンで大きな失敗をするんじゃないだろうか?」、「ぐっすり眠れるだろうか?」というように、プレゼンそのものではなくて、眠りに対して不安や緊張が移り、いわば「不眠恐怖症」のような状態になることがあります。
このような場合に、プレゼンが終わったにもかかわらず、毎日の眠りに対して不安や心配だけが残るということが生じます。
この結果、就寝時刻が近づいてくると、「今日は、ちゃんと眠れるだろうか?」など眠れないことを心配してしまい、この気持ちが脳を覚醒させてしまうのです。眠ろうとするこだわりがかえって緊張を引き起こし、これが入眠の妨げになるのです。
このような不眠症のことを「精神生理性不眠症」と呼び、不眠症の中で最も多く見られるものです(精神生理性不眠症は、かつて、「神経質症性不眠症」、「神経症性不眠症」と呼ばれていました)。
眠ろうとすればするほど眠れないのですが、逆に、眠ろうと思わなければ眠れることがあります。そのため、仕事をしていたり、読書をしていたりするときに眠ることがあります。
また、自宅の寝室ではすんなりと眠れないのですが、旅行先のホテル、電車の中、ソファーなど、いつもと違った場所だとよく寝付けることもあります(このような不眠は、とくに「学習不眠」、あるいは「条件付け不眠」とも呼ばれます)。
精神生理性不眠症の方の睡眠の状態を終夜睡眠ポリグラフ検査などで調べてみると、入眠までの時間の延長、睡眠効率の低下、覚醒回数ならびに覚醒時間の増加は見られるものの、患者さんの訴えほどは睡眠の状態は悪くないということもあり、「睡眠状態誤認」と呼ばれています。
とはいえ、患者さんが日常でつらい思いをしているのは確かで、このような不眠が継続すると、日中、気分が落ち込むようになる、集中力・意欲・注意力が低下する、疲れやすくなるといった症状が現れます。
精神生理性不眠症は、典型的には20代~30代にはじまり、治療しないと何年も何十年も継続することがあります。なお、この不眠症は、子どもや青年に見られることは稀です。
精神生理性不眠症の治療法としては、以下のようなものがあります。
<精神生理性不眠症の治療法>
睡眠衛生教育
精神生理性不眠症の患者さんは、睡眠に対して間違った認識を持っていることが多く、またそれに対するこだわりが強いという傾向にあります。そこで、正しい睡眠知識を身につけ、不適切な睡眠環境から脱却を測るというものです。
詳しくは→「睡眠衛生教育について」
認知行動療法
精神生理性不眠症の患者さんの中には、「早寝早起きが大切」と考え、早い時間帯に就寝する方がいらっしゃいます。 しかし、早寝すると、かえって布団やベッドの中で眠れない時間を長く過ごすことになり、ますます睡眠に対する不安が大きくなることがあります。
また、条件付け不眠では、就寝時刻や寝室など、いつもの睡眠環境が眠りを妨げるという条件反射が形成されています。
精神生理性不眠症の患者さんは、眠りに対する不安や緊張によって不眠の症状がおこっています。そのため、気持ちを落ち着かせることがとても大切です。
上記のようなことに対処するのが認知行動療法であり、この中には「睡眠制御療法」、「刺激制御療法」、「筋弛緩療法」、「自律訓練法」、「バイオフィードバック法」があります。
詳しくは→「認知行動療法について」
精神療法
精神生理性不眠症の元々の要因は外部からのストレスなどですが、それが、眠れないことに対する不安や心配など、精神的な面に原因が移っています。そこで、メンタル面の改善を図ることで不眠の症状を解消するというのがこの療法です。
詳しくは→「精神療法について」
薬物療法
睡眠薬を摂取することで、不眠の症状を抑えるというものです。
不眠症や、睡眠時無呼吸症などの睡眠障害を診療している都道府県別 病院・クリニック一覧です。→ 「不眠症、睡眠障害、睡眠時無呼吸症 病院・クリニック一覧」 |
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